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日々、雲のように流れて行く事象。世界中はエアに包まれている


by tenkuunomachi
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天空の街 1

時折、感じる事があるんだ...。
時間の流れるのが早すぎるって...。
もう二度と過去には戻れない。
過去に戻ってもう一度やり直したい事がたくさんある。
でも、それ以上になにも時間を気にしなくてもよかったあの頃に戻りたいって思うんだ。
一年が過ぎ僕はまた新たに歳を重ねる。生きていれば当り前のように訪れる事。
十代の半ばの時は自分がまた一つ大人になる事にたいしてなんの違和感も覚えなかった。それが当然のように感じられたんだ。
けれども今、早すぎる時の流れに戸惑っている。僕はきっと精神(こころ)だけ置いてきぼりにされたんだ。肉体だけが急速に流れる時間を正確に受け止め、精神だけが忘却の彼方へと、思い出の中へと追いやられてしまった。
時間は残酷だ。出会いがあれば別れもあり、誕生があれば喪失も訪れる...。なんでもないかのように行われていた行為が、自然のように顔を合わせていた大切な人が、突然にもう二度と繰り返される事がなくなってしまう。
 さよならを言う側であった自分自身もいつの日か見送られる側になる...。
その時に僕は彼等にどんな言葉を残してあげられるのだろう...。
自分自身にどんな言葉をかけてあげられるのだろう...。


雨あがりの空気は気持ちいい。夢の中にいる気分にさせてくれるから好きだ。
湿気を含んだ風が頬をなでていく。
視線は地面から空へと伸びていく。
まだなにか起こりそうな予感...。
大量の湿気を内包した雲は神の様に悠然としている。
じっと見ているとそれはいつのまにか母の様に見えてきた。
きっと僕は母に優しく包まれる事を祈って天へと飛しょうしていくのだろう。

                     プロローグ
                      
 気がつくとどこからかオルゴールの音色が聴こえてきた。
僕はその聴き慣れないメロデイに魅かれ歩き出していた。
気がつくと裸足のままその音色を追いかけていた。
地面は石造りで、凸凹の凹凸が足に伝わってくる。
周りの建物はすべておうど色の壁であった。
オルゴールの音色は聴こえてくるのに誰もいない街並み。
不思議ではあったがきっとあの音色を辿っていけば解決するに違いない。
 歩きすぎて足は棒のようになってしまった。それに変なことに体が重たくて思うように前に進めない。
あえぎながら空を見上げて見ると雲の流れていく様がみえた。
かなり流れが早い。
 雲を見ていると音が聞こえてきた。
地響きのような音。
きっと街の住民も含めて誰もが、全てのものがここから立ち去っていってしまったのだろう。
あのオルゴールの音はきっと時の流れからこぼれ落ちた残骸だったに違いない。
結局、僕がくるころには全てのものは形のみを残すだけだったのかもしれない。
おうど色の壁にしょぼくれてつったている僕の影が映っている。
僕がどこに逃げ出して見ても影はかならずついてまわるようだ。
それは僕という人間をくっきりと映し出しているようであった。
 重い足を引きずりながら僕は柔らかな光を受けて金色に反射する壁にもたれかかてみた。
きっとこんなことは幻想に違いないと考えながら...。
1
 どんな想いも現実には叶えられないと分かったときから、渇望へと変わるものだ。
不幸にも夢を現実(本物)にしようと願った時から業(カルマ)はついてまわるものだろう。
きっと誰もが心の中で何度も反すうしてみては、その距離に絶望すら感じてしまうに違いない。
時には死にたくなる程の衝動を覚え、狂いかけた自分の哀れさを必死に隠そうとし、そして、誰かに伝えたいとさえ思う。
 二律背反した思いはせきをきって流れ出ようとし、その度に声を失う。
 誰に救いを求めようというのだ。
 誰がこの足臥せから僕の魂を解放してくれるというのだ。
僕はたしかに探し求めていた。
それを...。
誰にも知られることのない僕だけの宝物を...。
たとえ、それが本当はガレキでもかまわないから...。
確かめることさえできれば納得できるはずだから...。
それすら出来ないのならば、いっそうのことこの目と耳と心を全て潰してしまいたいと考えながら。
                      2
 僕たちは同棲していた。僕も彼女も社会人であったのでお互い生活にはそれほど困っていなかった。
 同棲というとなにかぞくぞくとくるものがあるかもしれない。
別になにも悪いことをしているわけでもないのに、この二文字は照れ臭くなる言葉だ。
 彼女と同棲生活を始めてからもう二年が過ぎた。
 もともと、僕も彼女もお互いに一人暮しをしている身であった。
僕が二十四歳のときにこの生活は始まった。彼女は僕より二つ年下であり、大学のサークルでお互いに知り合ったのちに彼女の卒業が決まってから二人の同棲生活が始まった。

「ねえ、私の靴下知らない?」
日曜日の朝の出来事であった。
僕はたった今眠りから覚めたばかりであった。
「知らないさ、どうせ家の中にいるんだしかまわないんじゃないの?」
「そんなこと言って〜実はあんたが私の靴下はいているんじゃないの?」
そういってまだ布団の中にくるまっている僕の足を点検しだした。
「おいおい、朝から変な真似はよせよ」
「そう言われてもねえ〜前なんか私のストッキングはいて寝てたことあったしな〜」
「ちょっと、あれはその前日、二人とも酔っ払ってて、変なゲームに熱中したまま寝ちゃったからだろ」
「そう?そうだったけ?変なゲームって、私どういうのだったか詳しくは思い出せないけれども、きっとおもしろかったんじゃないの?」
僕は照れながらも笑ってみる。
「そう、最高とまではいかなくてもなかなか興味の湧く実験であったよ」
「まあいいかあ、べつに靴下なくてもさ、いいよね」
「うん、それよか、パンツいっちょでいるあなたは靴下よりももっと別なものが必要だね」
そう言われても彼女はなんら恥じる様子はない。
 彼女の右側の乳首にはピアスの穴の跡がある。
ちょうど、彼女が背中を反らすと両方の乳房がツンと上を向き、僕の目は乳房そのものよりもピアスの穴の方に目がいってしまう。
 最初、彼女の胸ピアスを見た時ショックを覚えた。あれは大学のサークルでお互いに初めて知り合ってまもない時のことだ。
突然、彼女が自分は普段 乳首ににピアスを付けていることを告白し、特別に見せてくれると言ったのだ。

その時恐怖と興奮が入り交じっていた。
「ねえ、触ってみてもいい?」
勇気をだして聞いてみると彼女は恥ずかしそうに身をよじった。
「ははは...駄目に決まっているよね」
いいよって言うかと思ってわざとらしく照れてみせたが、あっさりと断わられた。
もともと、乳首のピアスを見せてくれるって言い出したのは彼女の方であったのに...。
僕は子供のようにすねて見せただけだった。
 その時は何故、彼女が自分の乳首にピアスの穴を開けたのかは聞けなかった。
一瞬、僕は自分の乳首にピアスをつけてみることを想像してみたが、僕の小粒な乳首のどこに針を通せばいいのだろう?
 自分の胸を見てあからさまに考えていることが伝わるように演技してみせたが、その時の彼女は少しも笑ってくれなかった。
 「ねえ、もしかして僕に自分の秘密を教えたこと、後悔してたりする?」
 「うん、すっごく後悔している。どうせあなたの秘密なんて教えてくれそうにないしね」
 「例えば僕が密かに恋こがれている彼女のこととか?」
 「どうせ、そんな風に言うと思ったよ。もう君には期待しない」
冗談っぽく言って笑って見せた彼女であったが、僕は彼女の横顔を見て自分の秘密を打ち明けないわけにはいかないと思った。
彼女は顔は笑っていたが、僕への信用はがた落ちの気がした。
信用できない人間をいつまでもそばにいさせるわけはない。
 僕は言葉の一つひとつを慎重に選んで話はじめた。
「まず、僕はとても自分の中のイメージを大切にする方なんだ。それはどんなことかというと...」
彼女は目をクルクルさせながらその続きの言葉を待っている。
「ほ...ほら、なんていうのかなあ、男性でも女性でも相手の体の造りにしか関心を持たなかったりする人っているでしょう」
そこまで話した時、彼女はこくりとうなずいて見せた。
良かった。まだこの話は続けられる。
僕は話す順序を一生懸命に整理しながら、再び言葉を続けた。
「そのう、お互いに第一印象てのはあるからさ、どうしても最初は人を外見で判断しちゃうじゃない。で、ここからが重要なんだ。僕は決して人を外見で判断するなとか、人間は中味で勝負だなんて言うつもりは全然ないんだ。むしろ僕の中ではその人の人格とか生き方とかはどうでもよくて、勝手に僕の中でその人は形造られていくんだ」
彼女は僕の方を見て可愛く笑って見せた。
僕が照れていると、彼女は誤解を解くかのように話し出した。
「そんなこと誰にでもあることじゃないの。特に思春期の女の子なんて自分の好きになった人を勝手に理想の王子様にしちゃって恋に恋しているぐらいなんだから」
「そういうのとはちょっと僕のは違うんだよなあ」
「なに?その言い方だけじゃよくわからないよ」
僕はあらためて自分の中から言葉を選び出す。
「なんていうのかなあ、どうしても空想の世界に傾いてしまうところがあるんだよね」
彼女は大きくうなずいて見せると、またそれに対する自分の意見を語り出した。
「誰でも大かれ少なかれそんな気持ちってあるよ。だってやっぱり現実ってのはあまりにも小さくて色あせて見えて、予測のつく未来であったりして、なにもかも忘れてしまいたくなることばかりなんだもん」
彼女の一つ一つの言葉はあまりにも正確すぎて、僕はもうなにもそれ以上話すことはないように思えた。

「ねえ、私の家に来てみない?」
彼女の家にはまだ一度も行ったことはなかった。正直言って興味があった。
「うん」
僕はニコニコしながらうなずいた。
「ああ、その顔。まったく無邪気っていうのかなあ。普通女の子の一人暮しの部屋に招待されるっていったらもっといやらしい顔するものなのに」
「へえ、前の彼はそんな顔して見せたの?露骨だなあ」
「ううん、まだ誰も入れたことはないよ」
僕が一人どきどきしていると、彼女はまた笑う。
「ははあ、初めての人として受け入れてもらえると知って変な空想に耽っているな。スケベ」
「そ、そんなことはないよ。僕はとても紳士だからねえ。そんな変な気持ちはさらさらないよ」
「そうなのお、残念ねえ、私ちょっとがっかりした」
彼女も僕もすでに二十歳を過ぎている。なにがあってもおかしくはないし、当り前の年ごろだ。
「残念ってなにがあ。なにが残念なのかなあ」
そう言って彼女の顔を見ると舌を出していた。
まったく彼女の方が上手だ。
僕一人だけが自分の言った言葉に照れていた。
「まったく急に中年じじいみたいになるんだから」
「ああ、自分から人をはめといてそれはないだろう」
「えっ、以外と本気かもよ」
そんな冗談を言いながら僕たちは彼女の家に向かった。
 正直のところその時の僕はまだ彼女と清い関係でいたかった。
お互いに多くの秘密を隠し持っていたかったのかもしれないし、ただ今以上の関係になるのが嫌だったのかも知れない。
 お互いに、いや、少なくとも僕自身はまだ中学生の交際をしている気持ちでいたし、実際彼女はまだ16.17歳にしか見えなかった。
僕は誰にでも褒められるような交際がしたかっただけなのかもしれない。
もちろん、彼女の気持ちの中では僕は単なる友達でしかないかもしれない。
だけれども、彼女は特につきあっている人はいないようだった。
僕にとっては今の状態が一番気持ちよかったのだろう。
特に誰かに自分の好きな人をとられるわけでもないし、また互いに自分たちの秘密を見せあうわけでもない。この軽い状態は全てを円滑に進めてくれるし、お互いに慣習や規則に縛られることはない。
 そういえば、ドライなセックスとかセックスレス、セックスフレンドといった言葉が流行出しているけれど、僕の中はいつもそれであり、悪く言えばいつまでも子供のままであった。
常に誰かの目が気になり、誰かに褒めてもらいたくて、誰かに愛してほしくて、誰かに愛を伝えたくて、それらの全ては僕のひとりよがりとわかっていてもお互いにストレスのない関係を築くためには必要なことであったのだ。
彼女の家に出入りする関係になった僕たちはしだいにその距離を縮めていった。
ある日、僕たちは約束を交した。
「僕は今年卒業し、もう社会人になるけれど、そしたら僕たち2人で一緒に暮らさない?」
by tenkuunomachi | 2004-07-09 01:17