日々、雲のように流れて行く事象。世界中はエアに包まれている


by tenkuunomachi
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透明な音

  「斉(ひとし)ってなんでも出来るんだね。すごいなあ」
目の前には嬉しそうに話しかけてくる彼女がいる。
彼女の喜怒哀楽は多彩であり、その表現はいつも生き生きとしている。
よく笑う彼女。なにがそれほど可笑しかったの?と聞いたら彼女はまた笑った。
「きっと、可笑しいから笑うんだよ、可笑しいことに理由はないと思うよ」
「そんな物なのかね、まだ僕には分かりそうもないね...」
彼女はそれを優しく否定する。
「そんな事ないよ。だって今の斉はとても嬉しそうに笑っているよ」
僕は、ちょっとだけ照れてみせた。
「嬉しいと可笑しいは違うよ、佳菜。多分...、それは」
佳菜はにこにこしながら首をふる。その動作がまたたまらなく可愛らしい。
「一緒よ、嬉しいのも可笑しいのもきっと同じなの。だって、皆、同じく幸せな気持ちなんだもの」
「そんなもんかなあ...」
「うん、そんなもんなの。少なくとも私の中ではね」
佳菜の微笑みは僕を幸せにしてくれる。だから、僕もなにかお返しをしなくては。
「斉、今度はさあ、こんな感じのもの作ってみてよ」
そう言って、両手で一生懸命に形を説明しようとする君が笑える。
「なによ、私斉みたいに絵がかけないからうまく説明できないのよ」
いいって、佳菜は絵がかけなくてももっと良いものをもっているから...。
佳菜はいつもなにに対しても真剣だ。
なんでそんなに頑張れるのだろう。その小さな体にはどれほどの可能性が秘められているんだろう。
「私ね、自分に対して素直なの。やりたい事はやりたいし、欲しい物は欲しいんだよ」
それが、たとえ、人を傷つけ悲しませる結果になったとしても?もう二度と親友が以前のような付き合い方をしてくれなくても?せっかく守っていた自分の中の大切ななにかが壊れたとしても?
かけがえのない物を失ってしまうかもしれないっていうのに...。
「それでもね、私は明るい方向にしか考えられないの。傷つくことも痛みを感じる事も皆大切な事なんだよってね、必要な事なんだって自分の中で思えるの」
この子はきっと...、なんていったらいいんだろう。太陽みたいに輝いていて、その無邪気さに強くひかれずにはいられない...。
「ねえ、佳菜は僕の事を必要としているのかい?」
そう言って僕は顔を伏せた。
こんなに明るく、なんでも自分で押し進めていってしまう子が果たして僕なんかを必要としているのだろうか?この子の心の中にたとえわずかでも僕の居場所はあるのだろうか...?
僕をわずかでもいいから必要だっと思って欲しい。僕があなたを必要とするように...。僕の言った言葉がエゴに聞こえなければいい。僕は卑屈だからあなたを一部だけでも支配したいと思っているから...。きっと僕の醜く弱々しい心なんて全部見透かされている...。
僕はゆっくりと顔を上げた。
「なにを言うかと思えば...、私は斉の事を必要としています。私、完璧なんかじゃないし、そうなりたいとも思わない。愛する人の前ではできるだけ自分をさらけ出したいだけ...。それがどこまで可能なのかは分からない。私たちがお互いのすべてを理解しあえる日はこないかもしれないけれど、お互いの事を認めあい、知りたいと思う。同じ体験をしたいとさえ思うかもしれない。だってそれは単純にあなたに私がひかれているから...。私があなたのことを身を焦がすほど愛しているから...」
彼女は顔を赤らめてそう言った。感情的になっていた。
僕はいつも冷静に自分を隠す事で精一杯だけれども彼女は違うんだ...。
僕は君のそのなんでも出来る透明な純粋さが気に入っている。
そしてその音をいつまでも聴かせておくれ...。

FIN
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by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:14 | ショート小説