日々、雲のように流れて行く事象。世界中はエアに包まれている


by tenkuunomachi
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カテゴリ:ショート小説( 9 )

『スノーホワイト℃』

 『スノーホワイト℃』

ープロローグー

『地位とか名声を得るという事はバベルの塔のようなモノだろう。望む望まないに関わらず虚構に満ちた世界だけが肥大化してしまい、それは傷を中心に広がる膿みのようなものである』

ー第1章ー

『欺瞞に満ちた世界の通過儀礼として』

「先生、展覧会にいらした評論家の稲垣先生が少しお話をしたいと言っていますがお時間はとれますか?」

僕の事務所の秘書を努める沢村由紀恵が少し遠慮がちに後ろから声をかけてきた。
夏の暑い西日が窓から差し込み、彼女のショートカットが似合う白い肌に柔らかなオレンジ色の化粧をほどこす。

由紀恵は紺色のパンツに同じく紺のストライブの入ったシャツを合わせている。必要以上に女である事を意識していない由紀恵の姿はきっと周囲にキャリアウーマン風な印象を与えるはずだ。

しかし、女性ならではの洗練されたお洒落は細部にまで行き届いており、見えそうで見えない上品な胸元からは金のネックレスがのぞいている。NYブランドで最近になって日本でもブームになっているのだが由紀恵は流行に左右される事なくそれを愛しているのだ。ブランドやファッションに疎い僕にはNYのブランドの名前やアクセサリーの価値などさっぱりだが、由紀恵のファッションが清潔感溢れる
事ぐらいは判っているつもりである。

 室内はクーラーがきいているはずだが、それでも少し湿気を含んだ空気が画廊を包んでいるようだ。由紀恵の右手には日焼け止めが汗で落ちないように顔をそっと拭いたハンカチが握られている。ハンカチには南国に生い茂る葉をモチーフにしたプリントが施されている。 

由紀恵が秘書志望として初めて事務所に面接に訪れた時から、身だしなみに私生活が感じ取れない。どこか虚飾に満ちた雰囲気だった。
僕が由紀恵を秘書として雇ったのは、彼女の経歴を見て判断したからだ。一緒に仕事をするようになり5年経つが、今まで雇ったどの秘書よりも有能である。

 由紀恵とは対照的に僕の身だしなみといえば、肩まで伸びたボサボサの髪の毛、35歳を迎えたものの、20代前半に映る自分には少し不似合いな不精ヒゲ、ややくたびれた襟の開いたシャツに、若干ゆるめのチノパン。足下は履き潰したローファー姿である。
視力が衰えてしまい眼鏡をかけているが、眼鏡だけはインテリな印象を与えるフレームである。 由紀恵が今回の15回目の展覧会記念としてプレゼントしてくれたのだ。

「先生、稲垣先生には色々とお世話になっていますし、是非お合いするべきだと思いますが」
由紀恵は事務所のロッカーにあらかじめ用意してあるスーツを取り出す。口調こそ控えめだが裏腹に行動はキビキビとしている。無言の催促のようにも受け取れる。

「あぁ、判った、沢村君、じゃあ先生にコーヒーをお出しして応接室で待っていてくれるようにしてくれるかな?すぐに着替えるから」

由紀恵は言葉を最後まで聞き取らないうちに部屋を出ていってしまった。
替わりにテーブルにはノリの利いた白いワイシャツとカフスボタン、シックな紫色のスカーフに薄いベージュ色の上下のスーツ、モノトーンの靴下、それに磨きあげられた新品の革靴と靴ベラが置かれてある。
衣類の側には走り書きのメモが残されており『稲垣先生の前ではくれぐれも神経質な態度を出さないで下さい』と書かれている。彼女の筆跡こそやや神経質な尖った印象を受けるが・・・。

10分としないうちに私服からよそ行きの服装に着替え、髪の毛をヘアバンドで後ろに結んだ。
自分の全体像や顔を鏡でチェックしてみて不精ヒゲが少し気にかかったが、自分の作品こそが評価されるモノであり、顔だちや振る舞いで評価されるモノではないと考えている。ウエストが絞られたスーツは華奢の印象を醸し出しているが、そんな事はどうだっていい事実だ。

僕が応接室に顔を出すと、狐のように目を釣り上げた稲垣が満面の笑顔でソファから立ち上がる。
それをすぐに由紀恵が『お構いなく』と止めるが稲垣はとってつくったかのようなおじぎをしてくる。
毎度の事だが、本音と行動がバラバラな人間にはうんざりする思いだ。稲垣が本当は僕の作品や僕自身をどう感じているのかは知らない。不遜ないい方をすればあまり興味がない。ただ、こちらが頼んだ覚えもないのに妙に媚びて来る態度が鼻につく。噂によればかなりの評論家であり、彼の発言は色んな作家に大きな影響を与えているらしいが。

僕もおうむのようにそっくりそのままおじぎを返すと、ゆっくりとソファに腰かける。
由紀恵はまるで晴れ舞台に立つ子供を見守るかのように僕に視線を一瞬だけ移し、何事もなかったかのように話を始め出した・・・。


ー第2章ー 

『内気で、やや神経質なのは幼少の頃からだったと回想して』

 僕が絵を描き出したのはまだ幼稚園に上がったばかりの頃だ。いつも仲良くしてくれる隣近所のおばあちゃんが手先の器用な人で、手作りのお菓子を作っては食べさせてくれたり、当時体の弱かった僕に絵の描き方を教えてくれた。
その頃の僕は透き通るぐらい色白の肌で、夏でも長そでを着て皮膚を隠していた記憶がある。

当時、両親は僕に普通の男の子のように外で遊ぶ事を望んでいたようだった。
野球観戦が好きな父親は仕事がない休日になると、僕を近所の空き地に連れて行ってはキャッチボールをしようとさかんに勧めた。今思えばそれは良い父親像としてあったという事であろう。 
同じ血を分けた兄弟なはずなのに、僕より2つ下の妹はやんちゃな子で幼稚園にあがる頃には近所の子供達と空き地に行ってサッカーに参加して遊んでいた。

人見知りの癖があり、また体を動かすのがあまり得意ではなかった僕は、近所のおばあちゃんが顔を見せに来る時がほっと安らぐ時間であった。
おばあちゃんは土産がわりに僕と妹が喜びそうなお菓子や手作りの竹とんぼを持ってきてくれたが、妹はお菓子を貰って食べる事はあっても、それ以上おばあちゃんに関心を持つ様子はなかった。
 

 両親の僕に対する見方が大きく変わったのは僕が小学校に進学した時だ。
夏休みの課題で描いた自分の絵が学年コンクールで最優秀作品に選ばれると両親は僕をものすごく誉めた。どちらに似たのだろうか?と両親はさかんに喜んでいたが、幼稚園生の頃の土台があってそれが開花したのだろう。
それをきっかけに内気気味だった僕も自分に一つの自信を得る事ができ満足だった。

ー第3章ー

『トンネルから差し込む光を追いかける衝動こそが情熱であったと思う』

高校に上がる頃になると将来は芸術関係の大学に進みたい気持ちがいよいよ強くなりだした。
その頃は僕の身だしなみもさっぱりとしていて、白いワイシャツに学生ズボン、校則で指定された髪型にしていた。クラスの中では決して目立つ外見ではなかったが、絵が描ける、賞を貰う腕であるという事は自然と自分のアピールになった。

成長期まっさかりの学生達が部活に精を出したりバイトで小遣い稼ぎをしている時に僕は美術指導をする予備校に通っていた。父親は将来設計を考えたらどうだと諭してきたが、社会の構図など何も知らない僕には、父親が理想とする一般的なサラリーマン、一般的な家庭を築きあげる事に何の明るい未来も感じられなかった。思えばおかしな話だとも思う。一般的な社会人の父が一般的な家庭を築いた御蔭で自分があるのに、そんな簡単な事ですら判らない、『自分だけは特別だ』という狭量な世界観が全てであったのだろう。

予備校で教えるデッサンの授業はもっぱらテクニックを教える事に集中していたが、大学受験を名目に教えている以上は当然の事だと受け止めていた。僕はデッサンの授業はそこそこに自由課題の授業に熱を入れていたが、講師の反応はいつもイマイチだった。

内気で体が弱かった僕も思春期を迎えると同時に少しはたくましくなり、男らしさが体に現れるようになった。恋人を家に連れ込んだのは妹の方が早かったが、僕も予備校という志を一緒にする学び舎の中で、一つ学年が下の高校生と一緒にデートをするようになった。
何もかも新鮮に感じられた異性との交流は垢抜けないもので、話す内容といえば好きな画家の話やお互いに進学したい大学の話ばかりで、男女のそれの関係には一度も進展しないまま自然消滅をした。
彼女の顔も今となっては思い出せないが、別れ際に少しつまらなさそうにふて腐れた態度を取ったのを覚えている。


ー第4章ー

『高い塔からは何が見えたのか』

希望通りの芸大に合格をし、僕は油絵科に進学した。
大学構内の学生達は中学・高校時代のそれとまったく異なり、あきらかに異質なファッション、個性的なファッションに身を包んでいた。

デザイン科、服装科の生徒がこ綺麗でブランドモノを好む傾向にあるのに対して、僕の進んだ油絵科はどこか世捨て人のような世間とは縁を切ってしまっている風情が漂っていた。
無事に現役合格を果たせた僕も校則から解放される事で、身だしなみに関心を払わなくなっていった。
髪を伸ばし出したのはこの頃からだ・・・。
そんな僕を見ていい雰囲気出しているじゃん?と妙な仲間意識を持つ学生連中が集まる事もあった。
レゲエのような髪型にしている学生や、丸坊主の学生、季節に関係なく登山帽子を被っている学生まで色々だった。

僕はいよいよ自分の描きたい絵を描けるんだ。という溢れ出す情熱に燃えていた。

しかし、ある日突然に筆を持てなくなってしまった・・・。
描けないのではなく描きたくないと感じだしたのだ。

初めて絵を描いた時の事を思い出した。
柔らかな日差しに長い年月を経た温もりのある家。
庭に咲き誇るひまわりの花。
ゆるやかな時を告げる時計の音。
縁台に置かれたひときわ小さな草履と、使いこまれて気持ち良さそうにしている少し大きな草履。
口の中に広がる和菓子の香り・・・。

それらはすべておばあちゃんの温もりだった。

しばらくスランプが続いたのちにおばあちゃんの家があった土地に足を運んでみた。

僕達兄弟に優しくしてくれたおばあちゃん。僕はよく一人でおばあちゃんの家を訪ねた。
いつも笑顔で接してくれたおばあちゃんであったが、身よりがなく一人で家に住んでいた。
たまに介護ヘルパーが訪れる事があったぐらいで、それ以外、特にうちの家族以外の近所と親しくしていた記憶がない。

僕が中学生になる前におばあちゃんはひっそりと他界した。
1度だけ撮った事のある写真には、勝気なポーズを取る小さな少女と、その隣でうつむいている少年、
その少年を優しくみつめるおばあちゃんが映っている。

おばあちゃんが存在した形跡を残しているモノは今となってはその写真と墓石だけだ。
昔は畑があちこちにあった土地に住宅が立ち始め、おばあちゃんの家のあった所には24時間営業のコンビニが出来た。

僕だけの特別な場所であったはずの思いでの場所は、1日中色んな人が出入りする空間に占拠され、
ひまわりの咲き誇る庭は駐車場になってしまった。

僕はいつのまにか退学する事を考え出していた。
そう、彼女に合うまでは・・・。

ー第5章ー

『消え去った温もりを補完するために』
 「銀蔵君っていつもどこかに孤独を抱え込んでいるように見えるけれどもどうして?」

※銀蔵(ぎんぞう)とは当時の大学生仲間が勝手に僕につけたあだ名だ。もっとも今はそれが気に入り本名ではなく『銀蔵GINZO』というペンネームで絵を描いているが。

僕に声を掛けて来たのはデザイン科に進んだ川瀬真希だ。真希は腰まで伸ばした茶色い髪と、165センチの身長に長い脚、少し色素が薄い茶色い瞳が特徴的だ。

僕は昼の食事の手を止めて彼女を見返しさりげない笑顔を浮かべた。

「そういう風に見せるところがまたなんか孤独を隠していそうだヨ。銀ちゃんの悪い癖だね」

真希は僕のポーカーフェイスをあっさりと見破った。そしてするりと僕の横に座り込んで来て肩をくっつけてきた。
妙に馴れ馴れしいというか、あまり人との距離を意識しない所がある。僕とは対照的だ・・・。

「僕が孤独を抱え込んでいたってどうだって川瀬には関係ないじゃないか」
僕がそう言って再び箸を取ろうとすると真希がまた口を挟んで来た。

「急いで食べると胃に悪いよ、それに川瀬って呼び方、なんだか他人行儀な感じで嫌だなぁ〜」

僕は再び箸を置き話を変える。
「真希さんは将来の夢とかあるの?どこかの大手広告代理店に勤めるとか」

その当時、僕たちはまだ大学1年生であった。
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by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:33 | ショート小説

コンセント

さあ、

 コンセントを入れてみよう。

途端にノイズの走る画面が暗闇に現われた。

波の音、それとも狂ったノイズ?

..............................................................................................................................。

君はなにか誤解をしているようだね。

なにが誤解だって...?

君はコンセントを差し込みさえすれば、いつでも欲しい情報が手にはいる...、そう考えていなかったかい?

それでは間違いなのか?

さあ...、

役にたたないのならば、コンセントなんて必要ないじゃないか。

...。

図星かね、だから黙って、なにも言えなくなっている。

コンセントを差し込んだ後、すべてが予定調和のように正しく作動するとは限らない。

そうなのか?

そう、そして、それは我々、人にも言えること...。

では、まさか...。

そう、ノイズが走るこの画面は彼の現在。

まだなにも決められていない、漠然とした未来...。


ザ.....................................................................................................ザザ.........................................................。
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by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:32 | ショート小説

刹那

伽奈_
 「由宇奈ったらちょっとまってよ〜」
そういわれて振り向いた少女は微笑んでいた。
後ろから少し遅れてもう一人の少女が走ってくる。
「伽奈ったら、いつも遅いんだからあ」
そう言ってまた微笑んでみせる。
後ろから走ってくる少女は少しばかり茶色い髪を振り回すようにしてこっちに向かってくる。
真っ白な夏用の制服に紺のスカートをはいた少女、伽奈は透き通るように白く細い両腕.両足を懸命に動かして走ってる。
「伽奈、もう少し!頑張って!」
三つ編みをきつく結んだ少女はその艶のある黒髪とは対照的にその肌は雪のように白く透き通っている。
「もうっ、由宇奈ったら私が体が弱いの知っているくせに」
ようやく追い付いた伽奈は息をきらしながらも由宇美を責める。
しかし、由宇奈の方はけろっとして言い返す。
「そんなの承知よ。でもたまには運動も必要でしょ?」
笑いながら言う由宇奈は昼さがりの陽光に照らされて眩しい。
「もう、そんな事いったら由宇奈だって体が弱いくせに。なによ、なによ」
そう言って責める伽奈ではあるが、少しも本気ではない。
「ほら、伽奈、今日は渋谷に買い物に行く約束でしょう。せっかくの土曜日なんだもん、学校から早く解放されて早く遊ぶのだあ!」
「ふふっ、由宇奈そういえばあの服が欲しいって言ってたものね」
「そうよ!なんていったて今日はバーゲン初日だもん!はやく行かなくちゃ、それだけチャンスが減るってもんよ」
由宇奈は黒縁ち眼鏡の奥にある瞳を輝かせてそう言う。
あいかわらずきれいな瞳だなあ...。と伽奈は由宇奈の顔を見ながら思う。
「どうしたの?伽奈。わたしの顔になにか変なものついている?」
伽奈は切なそうに瞳を細めてかぶりをふる。
「由宇奈って、本当に綺麗な瞳なんだもん。まったく邪気のない透き通った瞳、髪と同じく艶のある黒曜石みたいで...」
由宇奈は少し顔を紅く染めて見せるがすぐに返事を返す。
「伽奈の瞳だってフランス人形みたいじゃないの〜。その茶色い髪だって自毛だしさっ」
伽奈は悲しげにかぶりをふる。
「私の場合は体のなかの色素が少ないらしいの。だからこの肌も由宇奈と同じように見えて微妙にちがうの。私の場合は貧弱な、欠陥だらけの肌なのよ」
「な、なにを言っているのよ!自分の体の事をそんな風に悪くいうなんて許さない!他の人ならばともかく伽奈はそんな事を言っちゃ駄目!」
そう言われて伽奈は照れてみせる。心の中で由宇奈のこの台詞を期待していたのだ。
由宇奈もそれをある程度わかっているからわざと強調して言う。
実際に由宇奈も伽奈もお互いの存在をとても大切にしていたし、それを確認するための言葉にはいつも熱が込められていた。
「とにかく、今日は渋谷に買い物に行くのだ!」
「わかったわ、由宇奈。早速渋谷にゴーよ」
二人はいつもこんな調子で行動していた。
まるでアニメの中に出てくる可愛いキャラクターを演じるように、二人共ふざけあってみたり、冗談を言い合うのだった。
 しかし、そんな二人ではあったが、内心では由宇奈は伽奈に対して友達以上の気持ちでいたし、伽奈の方は由宇奈の事を特別な友達として大切にしている。
まわりから見れば仲の良すぎる二人であった。
由宇奈_

「由宇奈、聞いて。私ね今、ある男の人から付き合って欲しいって言われているの。由宇奈だったらどう返事する?」
突然に伽奈は由宇奈にそう質問してきた。
「ちょっと待って、今欲しいもの探しているところだから」
二人は今 人だかりのできたバーゲン売り場で悪戦苦闘していた。といっても実際に苦闘しているのは由宇奈の方であり、伽奈の方はまったく今の状況を把握できていないかのような様子である。
「ちょっと、前のあんたそこどいてよー。あんたみたいなおばさんにはその服は絶対に似合わないって」
「あ、あのね由宇奈ねえ聞いている?私ねえ...」
なおも伽奈は由宇奈に語りかけている。半分以上 自分の世界に入ってしまっているのだろうか。
「ちょっと、そこでボーとしているあんた!なにも買わないのならそこどいてよ!」
後ろから体をねじりながら強引に割り込んできた中年太りのおばさんが伽奈を押し退けようとした。
「きゃあ!」
伽奈の悲鳴を聞いた由宇奈はせっかくつかんだワンピースを手放し、悲鳴のする方を振り向く。
伽奈はぶざまにも床に座り込んでいた。
「だ、大丈夫、伽奈」
「だ、大丈夫だよ。由宇奈」
そう言って伽奈はVサインをしてみせた。
「とにかく、ここを離れよう。伽奈」
「えっ、いいの?ワンピースは?」
「別にいいよ。あんなの、どうせ去年はやったやつだし」
そう言って由宇奈は伽奈の手をひっぱりながら人ごみから抜け出した。
伽奈はもうしわけなさそうに由宇奈をみつめる。
由宇奈にとってはこうしてみつめられるだけでもたまらなく嬉しかった。
もしかしたら由宇奈は伽奈に淡い恋の感情すら抱いているのかもしれなかった。
「ところで、さっきの話ってよく聞こえなかったんだけれども...」
デパート内を出口に向いながら由宇奈はそう切り出した。
後ろからとことこついてくる伽奈は困った顔をしながらも、嬉しそうに口を緩めながら由宇奈を見つめる。
「あのね、私、近くの高校の男子生徒から交際を求められたの。もちろん、お互いによくお互いを知らないし最初は友達になろうってことで...」
由宇奈の足どりが少し早くなる。
急に由宇奈の心の中に暗雲が広がった。
そんな台詞 伽奈の口から聞きたくない!そう今にも叫んでしまいたい衝動を懸命にこらえる。
「へ、へえ、それで肝心の伽奈はそれにたいしてどう思っているの?」
由宇奈は作り笑いをしてそう質問する。
「あっ、おこっちゃった?私だけ勝手に男の子と知りあっちゃった事」
「いや、別に怒ってなんていないよ、たださっきの興奮がまだ完全に冷めてみなかったみたい」
由宇奈はその気持ちとは裏腹に澄ました顔でそう言う。本当はこらえきれないほどの不安がうずまいているのだ。
「い、いやその...。私のせいで買い物を中断させちゃってご免なさい」
伽奈は真剣な表情で由宇奈に謝る。
伽奈。可愛い子なんだけれども、どこかボケた感じの子...。いや、普通の人ならば私のこんな気持ちに気がつくはずはないか...。私、やっぱり伽奈のこと好きなんだ。きっと誰にも取られたくない程に伽奈だけを愛している。
「とにかく、どこかの喫茶店にでもはいって話の続きを聞かせて」
気づかれては駄目。伽奈とは今までどうりのいい関係でいたいから...。
由宇奈は爪が手のひらに食い込むほど強く握り締めながらぐっと自分の感情を押し殺す。
由宇奈ったら握り拳なんてつくっちゃて、まだバーゲンのこと気にしているのかな...。
伽奈は心配そうな目で由宇奈を見た。
私の本心は誰にも悟られてはいけない...。由宇奈は笑顔の奥底でそう頑なに決心するのであった。
心の揺れ_
 
「伽奈、いつもの喫茶店でも構わない?」
「あっ、うん。全然かまわないよ」
「じゃあ、それで決まりね」
由宇奈はさっさと決断をくだすと伽奈の手を引っぱるようにして歩きだした。
「あっ、ちょっと早すぎるよ、まってよ由宇奈、もっとゆっくり歩いてちょうだい」
伽奈が少し苛立ちを込めた声で反発するが、由宇奈はそんな事にかまうことなくスタスタと歩く。
 
 渋谷独特のにぎやかさから少し外れた閑静な場所にいつも二人が利用する喫茶店がある。
由宇奈と伽奈が入った喫茶店ベルはここ渋谷の街が一望できる所にある。ビルの9階に作られたこの喫茶店は利用客が少ないので落ち着いてくつろげる場所だ。店内は煉瓦とクリーム色の壁が基調となっており、壁にはある一定の感覚で水彩画が飾られているみたいだ。照明は店内を優しい光で満たしてくれる白熱灯であり、木で作られたテーブルと椅子がその光を受けてより一層の艶を出している。カウンターを除くどのテーブルにもそれぞれ四人分の椅子が用意されているようだ。そして、そのテーブルの上には決して邪魔にならない小さなグラスが一つ置いてある。グラスの表面に細かな小さいヒビが無数に走っているがこれは細工だ。なにか特殊な焼き方でもしてあるのであろうか。
二人が窓際の席に腰掛けるとすぐにウエイターが注文をとりにきた。
「あっ、二人ともアイスコーヒーでお願いね」
由宇伽はほとんど伽奈の意見を聞かずにさっさと注文を決めてしまった。
ついつい気がせいてしまう。
早く伽奈の秘密を知りたくてしかたがないのだ。
「さっき、私に話してくれた男の人ってどんな人なの?」
由宇伽は自分の心を悟られないようになるべく落ち着いて喋った。
伽奈も覚悟を決めたかのようにゆっくりと話し出した。
「う、うん、なんていうのかなあ、最初はあっ、なんかもてそうなタイプって感じただけ...」
「それだけ...?」
「うん、まあ、それだけって事はないけれども、とにかくまったく知らない人からいきなり交際なんて求められてしまって驚いてしまいました...」
由宇伽も伽奈も女子校に通っているので男子生徒との出会いは少なくなってくる...。はずなのだが、うちの女子校には美人が多いなんていう妙な噂があちこちに広まってしまっているせいか、放課後になると校門の前に見知らぬ男子達がずらっと並んでいたりする。うちの生徒達もまんざらいやな気はしてないらしいが、どんな状況でもチャンスのない人間、つまりこの場合もてない人間はいるもので、そういった一部からは非難がとんでいる。
 由宇伽は決して男性は嫌いではない。恋ならば小学生の時に一回だけしたことがある。しかしあまりにも無謀ではあったが...。由宇伽が惚れてしまった男性は妻子持ちの先生であった。
「まわりの男の子なんてまったく相手にならないんです。先生、私、先生みたいな頼れる男性が好きなんです。先生、10年後で構いませんから結婚してくれませんか」
小学6年の時であった。由宇伽の理想の男性はまず、頼れること、安心させてくれる人である。そしてたまたま、担任の先生を好きになってしまったのだった。
今、由宇伽が何故、これほどまでに伽奈のことを愛しく思うかといえば、伽奈の弱々しくも可愛らしい魅力に強くひかれてるからかもしれない。伽奈は自分にはないものを持っている。そんな気さえするのであった。
伽奈は私の事をどんな風に思っているのだろうか...。
「ねえ、由宇奈だったらこんな時どうするの」
伽奈は少し顔を紅くそめながら由宇奈の顔をみつめる。
これは私にそんな男のことなんて振ってしまえって言ってほしいってことかしら...。それとも...。
一息ついてから由宇奈は自分の感情とはまったく逆の事を言った。
「そいつってかっこいいんだろうね。伽奈の事をそこまでとりこにするぐらいだから...」
「由宇奈...。そんな、私...。そんな事を聞きたかったわけじゃない...」
伽奈は切なそうな瞳を由宇奈から外し、窓の外の方に移す。
「ちょっとまってよ伽奈!いったいなにがどうしたのよ」
泣きたい感情を懸命に堪えてみても声に出てしまう。
一瞬、あまりにも大きな声であったので二人を包みこんでいた空気が振動したかのように感じられた。
伽奈は驚いたように由宇奈の方を見る。
「私にどんな答えを求めていたわけ?あなたがその男のことを好きならばつきあってみればいいじゃないの」
伽奈は唇をわなわなと震わす。
「ごめんなさい、でも由宇奈ったら急に私にたいする態度が冷たくなったから...。なんで、私が男の人とつきあおうかどうかって言い出したら突然...」
伽奈の茶色い瞳が光でいっぱいになる。今にも涙がこぼれそうになっている。
「ごめんね、伽奈はなにも悪くないんだよ...。私がただ自分勝手だっただけ。本当にごめんなさい」
急に由宇奈はしおらしくなる。そうだ、伽奈は私とは違う。全部違うんだ。
「由宇奈...。私、どうしたらいいんだろう...。私、由宇奈のこと好きだよ...、とっても。でもさっきから話している男の人のこともちょっと好きかもしれない。ねえ、由宇奈、私がその男の人に気持ちが完全に傾いてしまったら怒る?」
伽奈は絞りだすように喋りだす。
由宇奈は目を閉じた。
伽奈...。私、今すぐにあなたを抱きしめてしまいたい。あなたしか目にはいらないの。伽奈、あなたとは多分違う意味であなたのことを好きなんだわ...。でも、今それを言ってしまったら...。
「由宇...奈?私、なにかまずいこと言っちゃった?」
伽奈は心配そうな目で由宇奈を見る。瞳のまわりが赤く腫れている。
「伽...伽奈ね...私...」
由宇奈の鼓動が早くなる。何故か体中に快感が走り抜ける。きっとものすごく興奮しているんだ。
私は今からだいの親友の伽奈にとんでもない事を告白するんだ...。
それがどんな結果を招くか予想しているのにやめられない...。そうよ、この先こんなに苦しい思いをするくらいならばいっそうの事ここで壊してしまえばいい。
由宇奈。あなたは今から自分自身の偽りを壊すの。きっとものすごくつらくて悲しい事になる。それでもこれで、この一言で諦めがつくのならば...。伽奈が私を嫌いになってくれれば...。そうすれば、きっと私も諦められる。私はきっと禁じられた恋をしている。このままじゃ、私は地獄に落ちるでしょう...。だからそうならないためにも...。
_覚悟しなさい。由宇奈。あなたは今から裁きを受けるのよ。でもきっとそれであなたは救われる_
「伽奈、私ね、どうやらあなたの事を本気で愛しているらしいの!」
由宇奈は大きな声ではっきりとそう言った。
伽奈の表情が一瞬凍り付く。
まるで金縛りにあったかのように伽奈は動かない。
「フフフ...あ〜あ、私って馬鹿みたい。よりによってこんな事言ってしまうなんてね」
そう言って由宇奈は自虐的に笑って見せる。笑いでもしなければこの重苦しい沈黙は永遠に続くだろう。
伽奈はそれまでの穏やかだった調子から一転して急に緊張してしまう。
由宇奈だけが自分の招いたミスをとりつくろうかのようにあたふたとする。
由宇奈の心の中ではパニック状態に陥っていた。自分の不幸に酔いしれている場合ではなかった。とにかく伽奈をまず安心させなければならない。このままじゃ息苦しさのあまりどうにかなってしまいそうだよ〜!
「伽...伽奈?い、今のは全部嘘なのだ〜!ほんの冗談だって、ね、伽奈と私の仲でしょ。私が冗談言っているってすぐに気がつかないなんて、一体どうしちゃったのかな?」
伽奈はピクリとも動かない。
「そ、そうか、伽奈もとうとう恋に目覚めたわけか。うん、どれ、一つパパに紹介しなさい。ん?」
「プッ、由宇奈ったらおかしいっ、なによ、私、パパなんて呼ばないわよ。いつも父さんって呼んでるもん、勝手な想像しないでよ」
良かった、なんとか間が保てた。
「ごめんね、でも伽奈も悪いんだから。伽奈が私とその男性とを天秤にかけるような事言うからからかっただけだよ」
ほっとしたのも束の間だった。一生懸命に言い訳をすればするほど心の中にできた隙間が広がっていく。伽奈の瞳を曇らせたくない、さっきみたいな顔をもう一度されてしまったらもう自分は平常心を保てないだろう。
「とにかくさ、伽奈さえ良かったら今度その人私に紹介してよ」
「えーそんなこと言ったてまだ私その男の人の事もちゃんと知らないんだよ」
「うん、うん、それは良く分かっているからさあ、仮にうまくいったらの話」
「分かった〜!もしうまくいったら由宇奈にも誰か紹介するね。あっ、でも由宇奈ほどの美人なら私が紹介するまでもないか...」
私は校門の前でずらーと行列作っているちんちくりんどもにはまったく興味がないの!!!
心の中でそう毒ずいてみせる由宇奈ではあるが表情には出さない。
「由宇奈は男の人つくる気はないの?」
伽奈は興味しんしんといった顔でそう質問してくる。
「ないっ!今は全然ないっ!まったくないっ!」
由宇奈はおもわずムキになって否定してしまう。
「そ、そうなの...。今日の由宇奈なんか燃えてるね。なにか気迫が感じられるよ」
く〜、この女は!これが伽奈でなくて他の女が言ったならあっさりと無視してしまうだろう。わざとボケているのだろうか?ああ、何故、私はこんな子を好いてしまったのだろう。不思議と伽奈がなにをしてみせても許せてしまいそうなのだ。伽奈のとろさも天然ボケ(?)も全部 気にいってしまうのだ。
 それから二人はしばらくの間とりとめのない話をいくつかした後 喫茶店を出た。
夏季のせいか夕方の6時になっても陽が沈まない。そのために渋谷の街並みは夕日を受けて淡い光を反射させていた。

続く。
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by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:31 | ショート小説

散逸

不思議な夢を見たよ...。なぜか、その夢は強く印象に残ったんだ。





                      散逸


 気がつくと僕は一人、電車に乗っていた。しばらくの間、何故、自分がこんな所にいるのか判らなかった。
車窓から見える景色は見覚えのあるものだった。流れていく風景...。そろそろ電車のスピードが落ちるはずだ...。今、目のあたりにしている景色は僕がいつも利用する駅の周辺の場所だ。
 車窓からは草一つ生えていない広大な田んぼと、遠くの方に小さくビルが見える。このあたりも春になれば緑があちこちに見えるようになるのだが、冬の間は緑はセピア色の大地や木々の中にひっそりと身を隠してしまう。
 
 冬は寒いからあまり好きではないが、景色はとても綺麗だ。都心のあたりはビルに囲まれ、車の排気ガスと街の騒音に包まれてしまい、季節の移り変わりを感じることなどできないが、家の辺りにはまだ自然が沢山残っている。
 冬の景色のどこら辺が素晴しいのか?人によって意見はまちまちかもしれない。
僕は冬の精麗なふいんきが気にいっている。すべての葉を落とした木々は初めてそのシルエットをまわりにさらけだすわけだが、これは一種の潔さかもしれない。
僕は毎年、その光景を親が我が子を見守るような態度で見つめてしまう。彼等、裸身の者達は一切の汚れを払ってなにに望もうとしているのであろうか?自分には決してわかる事のできないその`何か、を一生懸命に感じ取ろうとしてじっとその場に立ちすくんでしまう時がある。
 そして彼等、裸身の木々の間から見える澄みきった空。高く、どこまでも高く...。その空には一体なにが映るのか...。
それらすべての感覚が僕にとって憧れのようなものであり、同時に遠く離れていて欲しいもののようにも感じる。威厳を感じさせるその空気は、厳しさと清廉さの象徴なのかもしれない。

 冬の良さに思いを巡らせていたからかもしれない。気がつくと電車はいつのまにか降りるはずの時坂駅に止まり、また動き出してしまった。
「おい、ちょっとまてよ!俺、降りるんだって!ちょっと、あ〜っ」
シートから腰を上げた時には扉はすでにプシュウッと無情な音を発して閉まってしまった。
シートの下から吹き付ける風があまりにも暖かかいせいであろうか、ついそのまま現実を忘れてうたたねをしてしまいそうになる。考え事や空想に耽ってしまってもおかしくはなさそうなものだ。
まあいい、どうせすぐ次の駅に止まる。そしたらこの電車の上りに乗り直せばいいんだ。そうだ、この電車は終点までは行かず、次の駅で上りに変わるんだ。なんだったらこのままこの電車に乗って時坂駅まで戻ったって構わないじゃないか。
その時はそう思って安心したのだ。
しかし、安心はすぐに不安に変わった。急に、車内放送が流れ始めた。
「え〜、本日は千石本線をご利用いただきましてまことにありがとうございます。この電車は次の南時坂駅には止まらず、そのまま終点の思いでの里駅まで行きます。なお、この電車は時坂駅から急遽、特別快速に変更いたしました。ご乗客の皆様、どうぞよろしくお願いいたします」

 なんだって!
一体、どういう事なんだ。おもわずシートから飛び上がった。こんな事があってたまるか。突然、特別快速に変更になったっていうのはどういうことなんだ。だって、この電車は各駅停車なはずだぞ!
それはきのう今日に急に決められた事ではなくて、僕が高校に通うために利用している時から、いや僕が生まれる以前からの決まりごとみたいなものだ。それに、だいたい思いでの里なんて駅、この沿線沿いには存在しないはずだぞ!!
「ねえ、皆さんだって変だと思うでしょう!」
この不測の事態にどう対処していいのかわからず、まわりの乗客に賛同を求めた。
しかし、
「あっ!」
そうだ。最初から変ではあった。何故その事にもっと早く気がつかなかったのだろう。
 車両には僕以外には誰も乗っていなかった。
この電車は朝の通勤時間帯には乗車率が120パーセントを超えるほど混む。よほど朝の早い時間帯とか始発でない限り一つの車両に必ず何人かが乗っている。
だが、今この車両だけでなく、見渡せる限り、隣の車両にもまたその隣の車両にも人ッ子一人として乗っていないのだ。つまり、今この電車の中には車掌と僕だけしか乗っていない可能性が高いのだ。
この不条理な状況はすべて車掌が仕組んだ事なのであろうか?でも一体何故?なぜ僕が選ばれたのだろうか、何故、僕が犠牲になってしまったのであろうか!
 僕はじっとしているわけにはいかなかった。まず、誰か人を探さなくては...。きっと僕と同じようにこの電車の中をうろうろしている人がいるはずだ...。


「誰かいませんか〜」
僕は車両から車両へと歩いていった。
冗談じゃあない。一体なんで僕がこんな目にあわなければならないのだ。

車両の両側に備え付けてある焦げ茶色のシートには時々 木々のシルエットが映る。
僕は進路方向と反対の方に流れていくそのシルエットに目をやりながら、なお先頭へと歩いていった。
少し歩いて行くとまた異変に気がついた。 車内刷りのポスターが一枚もないのである。
おかしい。これはおかしい...。いつもならば、必ず同じ週刊誌の予告ポスターがいたるところに貼られているはずである。しかし、この車両にはどこにも貼られていない。
また少し先へと進むと今度はいよいよ吊革までもがなくなってしまった。
「え〜、嘘だろ、一体、どういう事なんだよ!」
変なんてものじゃない。これは異常事態だ。
いよいよ怖くなりだし、外を見た。
すると外には紅葉が美しい木々が広がっている。時々、バサッ、バサッ、と枝が窓にぶつかる音がする。
「そんな、だって今は冬でしょう!」
いったいこの電車がどこら辺を走っているのかは分からないが、今の季節は確かに冬であり、紅葉が美しい木々などそう見れるはずがないのだ。

すると、また車内放送が流れた。
「お客さん、そんなにあせらなくてもまったく大丈夫ですよ。大丈夫です。はい。なんの心配もいりません...」
僕は天井に向かっておもいっきり叫んだ。
「嘘だ〜!そんなはずはない。これが現実なんかであってたまるかあ!」


 すると、その言葉がキーワードでもあったかのように、突然、視界が暗くなりだした。
「ああ、助けて...」
意識を失ってしまう前に最後の抵抗をしようとした。
暗闇のなかで鶏の鳴き声が聞こえた。
目の前にはうっすらと蛍光灯の照明が見える。
あれ?
最初、自分が何処にいるのかわからなかった。
しかし、すぐに意識がはっきりとしてきた。
今、自分はベットの布団にくるまっている。ここは自分の部屋だ。という事は、さっきのは全部夢だったのか...?
「ああ...」
急に安心感が湧いてきた。
まったく、寝ている時くらいは電車に乗る夢なんてみたくないよな...。ただでさえ、通勤の時は毎日つらい思いをして電車に乗っているんだ。せっかくの休日なんだ。せめて夢の中だけでもいいからどこか素敵なところへ出かけた夢でも見てみたいもんだ...。

しばらくの間、目が醒めていたが再び眠りに入っていた。

すると、また電車特有の音が聞こえてきた。
ゴトン...ゴトン...。
また、僕はさっきのところに連れ出されていた。
僕はさっき意識を失いかけたところにつったっていた。
「いい加減にしてくれよ!」
吐き捨てるようにそう言った。
それに反応するかのようにまた車内放送が流れた。
「いやあ、お客さん、急にここからいなくなっちゃったもんだから心配しましたよ。いやあ、あまり無茶な真似はしないでくださいね」
「無茶な真似ってなんだ!いったいなにが無茶だってんだ。くそっ!何故、俺がこんな電車に乗っていなきゃならないんだ」
スピーカーに向かって怒鳴ってみた。
すると車掌はしばらく沈黙していたが、今度はなだめるような口調で僕に話しかけてきた。
「いやあ、そういわれましてもねえ...。あなたがこの電車をご利用したいと願ったのでございますよ。でなければ、私、こうしてあなたを向かえに来ることなんてありませんでした...」

「じょ...冗談じゃない。誰がそんな事、望んだ。いいがかりだ。今すぐ俺を時坂駅に降ろしてくれ」
足を踏み鳴らして叫ぶと車掌はおかしそうに言った。

「あなた、これが夢の中である事はさっき知ったはずですよ。時坂駅に戻ってどうします?また普段どうりに駅からバスに乗って自宅へ帰りますか?」

そうだ!これは現実ではないのだ。夢の世界なのだ。

「あっ、お客さん。あぶない。そんなに強く認識してはいけません。まだ、あなたは慣れていないのですから...。まだ、あなたは夢の中にうまくとどまる方法を心得ていないのです。そんなに強く自覚してしまってはそのショックで再び目が醒めてしまいます」

そうか、今 一瞬感じためまいはそのためであったのか...。危ない。目を醒ましてしまうところだった。
しかし、すぐ疑問が湧いてきた。
「ちょっとまてよ、いったいなにが危ないんだ。ここでもう一回、目を醒まして、再び眠りにつく。
そうすれば今度は別の夢が見れるかもしれないじゃないか」
すると、車掌があわててそれを否定した。
「あなたは人の苦労というものをまったく分かっていない。酷い人だ。実に自分勝手な人だ。私があなたを再びここに連れ戻すのにどれほど苦労したと思っているのですか?いいですか、少しこっちの事も考えてくださいよ」
なにが、苦労しただ...。余計なお世話だ。
車掌はなおも続けた。
「あなたの背中のあたりを触ってください」
僕はいわれるがままに触ってみた。
「なにか、ロープみたいなものがくっついていますね」
確かにそのとうりだ。なにか細長い紐みたいなものがくっついている。
「そうです、それがコードです。わかりますか?さっきはそれが切れずにうまく くっついてくれてたために無事ここに戻ってこれたのです。これが勝手に切れると、もうここには戻れなくなってしまいますよ」
そういわれると、なにかとても重大な事にかかわってしまった気がしてきた。もはや自分一人の問題ではない気がしてくる。
「大切にしてください...。お願いします。それは勝手に切ったりしてはいけないものなのです。あちらの世界に戻りたい時はきちんとした手順を踏んでほしいのです」
なんだか、とてもいけない事を僕はやってしまったらしい。
「ちゃんと、僕は目を醒ます事ができるんですね。突然、眠ってしまい、こちらの世界に連れ戻されたりしないのですね。もしそんな真似をされたりしたら困りますよ。僕だってあちら側での生活があるんだ...」
僕はいつのまにか敬語になっていた。
すると車掌は子供に言い聞かせるようにゆっくりと言った。
「大丈夫ですよ。その点はなんの心配もありません。別にこの旅はいそぎではない。あなたが納得するまでこの旅は続くのです。わかりますか?すべてあなた次第なのです。こちらの要求はただ、こちら側とあちら側を行き来する時には一言、断わってくださいよ、と、これだけなのです。それが私とあなたの間のルールなのです」
そう言われるとなんだか安心してきた。車掌の言い方には高圧的なところがない。僕が納得すればこの旅は終わるのだ。ただ簡単なルールを守ればいいだけなのだ。

しばらくおいてから僕はスピーカーに向かって言った。

「わかったよ。じゃあ、もう少し付き合ってみるか...」

どうやら、この電車には車掌と僕以外は誰も乗ってはいないようだった。
僕は車掌に会うために先頭へとずっと歩いていった...。



 しばらくして車内放送が流れた。もうこれで何回目かはわからないが、車両内に一人取り残された僕にとって、いつのまにかこの声が頼りがいのあるものになっていた。
 「どうですか、ここら辺までくるといよいよ寂しくなってきたでしょう...。実は終点の思い出の里駅まではもうすぐなんですが、終点といっても特別変わったところではなくてねえ...。まあ、なにかしらの体験でもできるといいのですが...」
そうか、もうすぐ着くのか...。しかしそう告げられても、そんなに解放感が湧いてはこない。夢の中なので時間の感覚があまりはっきりとしない。かなり乗っているはずなのに一向に疲れないのだ。そういえば、不思議な事に何両も移り歩いているはずなのになかなか先頭が見えてこない。
 
 次の車両に移ろうとした時電車が大きく揺れた。
「おい、危ないじゃないか」
とっさに手すりにつかまりなんとか転ばずにすんだものの、かなりの衝撃があった。
「え〜、ただ今、停止信号が赤になっています。青になりしだい出発いたします」
停止信号?随分とリアルだな。これも僕の想像力が生んだ産物なのであろうか。

 しばらくすると、別の線路に新たに列車が入ってきた。
ブルートレインのような外観のその列車はややくたびれた音をたてながらゆっくりとこの電車を追い抜いていった。
 列車が完全に過ぎ去ると再び放送が入った。
「え〜、ただ今、停止信号が青になりました。まもなくこの電車は発車いたします」
 僕は急いで窓を引き上げると、今過ぎ去っていった列車の方角を見た。
列車はすでに遠くの方を走っているせいか小さくなって見えずらくなってしまった。
「今の列車は...。一体...」
今さっき通過した列車の車両にも誰一人として乗っていなかったように見えた。
疑問を抱くとそれに答えるようにすぐに放送が入った。
「今のは、つまり...、他人の夢の中に存在する列車なのです」
他人の夢の中?
これは僕の夢の中ではないのか?一体、何故、他人の夢が混在しているのだ。
すると、車掌はまたその疑問にたいして答えた。
「信じられない事かもしれませんが...、これは単純にあなたの夢の中の世界ではないのです。正確にいえば、時坂駅を少し過ぎたあたりまでは純粋にあなたの夢でした。いや、それも正確ではない。正しく言うのならばあなたの夢の中に私が潜りこんだのです。そしてあなたを純粋なあなたの夢の中から引っぱり出した。そして、あなただけではなくあちこちの人々があなたのように自分の夢の中からそっと引き出され、こうして夢の里駅へと向かうのです」
「なんだ。それではまったく現実と変わらないじゃないか。でも何故、そんなことが...」
「それは...、いえ、直接、あなたがお確かめになるといいでしょう...」
「おい、それともう一つ教えてくれよ。一体いつになったら先頭へとたどり着けるんだ」
「そんな事簡単です。あなたが先頭に行きたいと心の中で念じればいいんです。あなたが先頭にたどり着けない理由は、いつになったら...、と不安になるからなんです。そうするとあなたの夢の一部でもあるこの電車はそれを敏感に察知して余計にあなたを困らせてしまう。多分これはあなたの本来の性格が原因なのでしょう。
 痛いところをつかれてしまった。まったくだ。僕はどちらかというと逃げ腰な方で、嫌な事や重大な局面を避けようとする傾向がある。
いったん諦めてしまったり、挫けそうになると、心の蓋が閉まってしまい、思考回路が麻痺してしまうのだ。まさか、それを夢の中で指摘されてしまうとは無意識の内にそんな自分を改善したいと思っているのだろうか...。
しかし、夢の中で自己反省をするはめになるとは...、まったく夢にも思わなかった。

 とにかく先頭に行ってみよう。
そう強く念じた瞬間、僕はいつのまにか古びた車両の床に立っていた。
まず足元を見て驚いた。
床が木でできている!いや床だけではない。シートも木でできている。シートはさっきまでは一列に座れるようになっていたが、今度は対面型の四人座りに変わっている。
天井を見ると蛍光灯のかわりに裸電球になっていた。
「うわあ、おもいっきしレトロじゃないかよ。すごい」
「お客さん、この形は私の趣味でしてね...。どうしても先頭車両だけはこの形にしておきたかったのです」
今度は放送ではなく直接、車掌室から声がした。
木でできたドアは半開きになっている。
僕は思いきって尋ねてみた。
「車掌さん、そっちにいってもいいかい?」
すると、優しい声が返ってきた。
「いいですよ...。どうぞ、遠慮なさらずに...」

なんて言ったらいいのだろう。車掌はまったく僕の想像どうり、どこにでもいそうなおじさんであった。もしかしたら、現実の世界で一度くらいは会った事のある人なのかもしれない。
もしそうだとしてもなんら不思議はない感じの人であった。
 「あの、どこかで一度会ったことあったけ?」
車掌は首を振った。
「そう、でも正直なところ、あなたってどこにでもいそうな感じの人だったから...」
「あなただって、どこにでもいそうな青年ではないですか」
「まあ、それは確かに言えているな」
そう言って互いに笑った。

「で、もうすぐ思いでの里駅に着きますよ」
そう言われると急に期待が湧いてきた。

「ねえ、思い出の里駅には一体なにをしに行くんだよ」
僕がそう尋ねると車掌は困った顔つきになった。

「それは、あなたが決める事なのですよ。私はなにも言えないのですよ...」
僕が決める?何故、一体どんな理由でそうなったんだ。

「とにかく着けばわかります。ほら、見てごらんなさい」
そう言って車掌は運転席の正面ガラスを指差した。

「あっ、あれが、思い出の里駅かい?」
車掌の指差す方向には小さく駅が見えた。

 平凡な駅じゃないか...。
それは確かに、とてつもなく変わった駅であってほしいなんて思いはしなかった。
 SF小説に出てくる様な、そこらじゅうが光と機械に覆われた駅であったらどんなもんだろう...、とか、ものすごくクラシックなふいんきのある駅、そう、まだ日本に電車というものが開通してまもない頃の駅(実際のところ、どんな感じかは正確にはわからないのだが)であったら情緒も感じられるだろう...。と考えはしたが、なにもそこまで望んではいなかった。ただできるだけそのふいんきを味わえるようなところであったらいいだろうな、と思っただけだ。いやそうなってほしいと心の中で期待していたかもしれない。でも、少しぐらいは妥協する気持ちもあった。
が...、
まさか
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by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:29 | ショート小説

セックスセックスセクス

「ねえ、あんたさあ、なんていうのか、女顔じゃん。化粧してみたら以外と似合ったりして」
妖しい笑みを浮かべて彼女は僕の前に手鏡を差し出す。
                       1

踊るのに疲れた僕がカウンターで一人休んでいた。
 一息つくときはいつもタバコを吸うのだが、その時は生憎と愛用のジッポも百円ライターもなかった。
 ボーイに火をかりようとした時、隣からそっとガスライターが差し出された。
ライターを差し出すその腕は白く、透き通っているようであった。多分、暗すぎる照明の光が必要以上にその細い腕を青白く見せたのだろう。
 「ありがとう」
そう言って、その腕に視線を滑らせ、更にその腕の持ち主へと視線を走らせた。
「あら、お一人なの?」
石膏の様な腕の持ち主は月のような女性であった。月の女神とでもいったらいいだろうか?
その声は僕の耳をくすぐるほどまでには魅力的ではなかったが、その声を発した唇は白い肌に痛々しいほどに赤いルージュがさしてあった。ある種、被虐的なところがあると感じた。
 そう、まるで一点の曇りすらない雪の大地に跡を残してしまった獣の血のように...。
僕は激しいめまいを一瞬感じたが、すぐに気を取り直して彼女の問いに答えた。
「ええ、ここにはいつも一人で来ていますよ」
すると、ほとんど光の感じられない闇の中で彼女の瞳が細まった。
「ここには、なにをしに一人で来るの?」
僕は微笑みを浮かべながら答えた。
「なにって、踊りにさ」
彼女はその答えでは満足がいかないようであった。
「私はここに踊りにくるのだけが目的ではないわ。そう、あなたみたいに満たされない人間の願いをかなえるために来るのよ」
僕は一瞬ではあるがカチンときた感情を強く抑えると、かわりに痛切な嫌味を言ってやった。
「なんだよ。一発やらせてくれるとでもいうのかい?しかもタダで。それとも今みたいに僕が困っていたところを手助けするのが君の目的かい?」
彼女は馬鹿にするように笑った。
「それで、あんたが満足するのならばね。いいわよ。でもそれでいいの?」
そういう彼女は強くセックスをアピールしている格好だ。
エナメルのボデイコンはまるでボンテージを連想させる。
僕は少しの間考えた。
何を考える必要があるんだ。こんなのからかわれているだけじゃないか。僕に隙があったのだろうか?これは逆ナンパかなんかなのか?
しかし、心の奥底では願い事を言えと囁く声がする。
駄目でもともとではないか。
「本当になんでも叶えてくれるんだな」
そう言うと彼女の唇がきつく吊り上がった。
「ええ、まわりに迷惑のかからない範囲だったらね、もっとも世界征服を企むような人間や、誰かを殺してやりたいなんて考える人の前に私は現われないけれども」
僕はいよいよ鼓動が早くなりだしていた。
「本当にいいのかよ。なあ本当に...」
「いいわよ」
「僕の願いは...」
そこで意識を失い僕は落ちていった。
目が醒めると見慣れない部屋に彼女と二人きりでいた。
「ここは、どこ?」
僕がそう聞くと彼女は優しい声で囁いた。
「ここは夢のなかよ。きっと」
「えっ、夢の中って?」
「いいの、気にしないで」
そういう彼女の顔は先程のような妖艶なふいんきはない。
あいかわらずエナメルのボデイコンを身につけている彼女の体は苦しそうでもあり、それがまた刺激的である。
突然、彼女は手鏡をどこからか持ち出してくると僕の前に差し出してきた。
「ねえ、あなたさあ、女顔じゃん。化粧してみたら以外と似合ったりして」
僕の顔は確かに女顔である。綺麗だね。と言う人もいるが、僕はこの顔のせいでどちらにも属さない人間になってしまった。
彼女もまた、そんな僕の気持ちを知らないのだろうか、顔の事に触れてきた。
「僕のこの顔はどちらにも属さないんだ」
そう言うと彼女は微笑した。
「あら、世の中には自分の顔が理想と離れすぎていて悩んでいる人が大勢いるんだから。そんなこと言っちゃだめよ。それにあなたは今...」
そして僕は驚いた。
「あっ」
なんと自分の体が女性になっている。
胸の膨らみのせいで足もとがよく見えないのだ。
「どうして?」
声までいつのまにか女の声になっている。
「あなたがそれを望んだからよ。あなたが女性になってみたいって」
「そ...そんなつもりは...」
しかし彼女は容赦なく僕を後ろから襲ってきた。
「あっ」
「あなた、男では決して入れないレズの世界に興味があったんでしょう?罪の意識もなく、淫放で不可思議で背徳的で、そして繰り返し終わることのない世界に...」
自分の決して人には見せない欲望をあっさりと見抜かれてしまっていた。
 男という男の視線を一身に集める程の魅力的な女性が決して男を相手にすることなく、同じように美しさと完璧さとを兼ね備えた女性とのみ絡み合う光景...。汚れてはいけないのだ...。壊れてはいけないのだ。そのはずの、絶対的な女性同士で行われる肉欲の絡み合い...。初めから一切の快楽を得れる肉体となっており、処女膜なんていうものは存在しない...。外見上は傷つくことなく、また純粋に快楽を得ている彼女達の心には一切の迷いも曇りも存在しない。ただ、お互いを責め、責められる。
喜びにうち震えながら...。
 _ それはもう選ばれたものの特権と言ってもいい。彼女達は永遠に若く美しいのだ。_
そんな妄想を僕は抱いていた。
クラブで男達とじゃれあう女達...。
それがただ純粋にお互いを好いているから、愛しているから、というのならばいいが、初めて出逢った男と女がそこらへんでセックスをしている。
 まるで動物園にいるようだ。
そして、悲しいかな、それを見ている僕も、いつのまにか野性的な部分が目覚めてくる。
 僕は完璧でないものは許せなかった。
そんな、狂った、誤りだらけの不完全で未完成な愚にもつかない奴等がいっちょまえに主張していること自体腹がたった。
「あなた。ちょっとヒステリーになりすぎよ。だから、私が全て解放してあげる」
そう言ったかとおもうと、いきなり私の体を愛撫しだした。
今までとは違う切ない感覚が体中を走る。
「はん...」
「くうっ」
熱い息がもれる。
「どう、想像していた以上にいいでしょう?あなたは今自分が求めていた最高の女性になりきって、その体で快感を得ているのよ。ものすごい贅沢よねえ。自分がなんの努力もしないで自分以外の者になるってことが一番の贅沢かもしれない...」
私の体と心は次から次へと襲ってくる快感の波に揉まれていて、彼女の意見を聞いている暇がない。
彼女はボデイコンの胸のところだけをさらけだしたまま愛撫を続けている。
 私自身も同じ格好、同じ状態だ。最初から全部を見せあうのは早すぎる。
「あっ、お姉様、もう、めちゃくちゃにしてえ!」
「ふふふ、大胆ね、いいわ、めちゃくちゃにしてあげる」
突然私の服は一気にはぎとられ、一糸まとわない私の体を一気に攻め上げる。
「くっ、くう、くああああ、いや、いや、んんっ...」
そしてついに絶頂を迎えた。
2
 僕は自分の体を男に戻してもらった。
とたんに、ごつごつとしたラインの悪い体になる。
「意地悪しないで...」
彼女はクスっと笑う。
「意地悪のつもりはないわ。ただ、女性たちの大半はレズではないし、あなたみたいな男の体を求めているのよ。ふふふ...。勿論、あなたみたいな体になりたいのではなくて、あなたみたいな体つきの人に抱かれたいって思っているんだけどね」
「意地悪な言いかたね」
「だって、本当のことだもん。考えてみなさいよ。あなた、そんな最高の肉体を持った女性をあなたみたいな醜い肉体の人間が抱けるのよ」
そうやって、男は自分の野心を満足させるのだろうか?
「わ...私は」
彼女は強い口調で言った。
「女性の体には興味がある。けれども、生理とか妊娠などといっためんどうな事は一つだって欲しくはない...。あなたって随分とエゴイストねえ、まるっきし、やるだけやって後の責任は一切とらない最低の男と一緒ねえ。自分さえよければ人のことなんてどうでもいい。そういった気持ちを認めるのが嫌で仕方がないから勝ってに幻想の世界に逃げ込む...。綺麗なレズビアンという設定までつけてね
。あなただって、単なる性欲の塊なのよね、みんな異常性欲とかノーマルって言ってかたずけようとするけれども、それは、確かに、なにもわからない少女にいたずらするロリコンとか、強姦でしか感じない人間とか、死体相手にセックスするような人種は最低な下衆よ。クズよ。あなたたちはホモとかおかまを自分たちとは違う人種とみなそうとするし、小馬鹿にするけれども、なに一つ責任をとれない人間に言う資格はないわよねえ」
「僕がなにをしたっていうんだ。僕はただ単に自分の空想の世界で遊んでいるだけじゃないか」
彼女は笑って見せた。
「そう、おこらないで。別にあなたを責めているわけじゃないから...。ただ、あなた、少し、逃げすぎなのよね、本当は自分だって、べっぴんの女をものにしたいって考えているはずなのに、それを意識的に遮断しようよしているんだもの...」
「僕だって、本当は君みたな女性をこっちに向けさせたいさ。力ずくではなく、僕を愛してくれるように...」
「そのためには、やはりあなたから、彼女に興味を示していることを表現しなくちゃ...。なんでも一方的では伝わらないわ」
「どうして、そんなことを僕に教えてくれるの?」
「言ったでしょう。私はあなたの願いをかなえるものだって...」
「あ...あなたは......」
「私は......」



 さて、ここで話は終である。
ぼくは結局なにを言いたかったのか自分でもわからない。
きっと、これも鼻糞にも値しない屑なのかもしれない。
幻なのかもしれない。
なぜならば、決して実現されない空想よりもたちの悪いものはないから...。
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by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:28 | ショート小説

魚璃奈(さりな)

「ねえ...」
魚璃奈(さりな)が可愛らしい声で僕に聞いてくる。

「なんだい」
そう言って魚璃奈の方を見ると、魚璃奈はガス台の前でもじもじしている。

「な、なにをしているの?魚璃奈。一体どうしたの」

魚璃奈は首を振った。
「京(きょう)がさっきやってみせた、あの火がボオっと出るやつ、いったいどうやったらできるの?」

好奇心に満ちた瞳で僕を見つめている。

そうだ、魚璃奈にはまだ、火の使い方を教えていなかった。

「ねえ、ねえ、いったいどうやったら火、つくの?」

魚璃奈はおねだりをするように僕の腕にしがみついてくる。

ぴょんぴょんと跳ねる魚璃奈の頭を撫でながら、火をつけてみせた。

「わあ〜い。ついた、ついた。ねえ、京、火がついたよ〜」

「ああ、そうだね、でもね、これは危ないから魚璃奈は決して真似をしてはいけないよ...」

「うん、わかった!了解です」

そう言って魚璃奈は満面の笑みを浮かべてみせた。

...。魚璃奈はすでに見ためは15歳ぐらいだ。僕とだって10歳と離れてはいないはずだ。

ガスコンロ一つ扱えないはずがない。

言葉遣いだってもっと大人びていてもいいはずだ。

しかし、この子は...。

 そう、この子を最初に発見したのは雪の降る朝であった。

ゴミを出し、会社に向かう途中であった。

僕が駅に向かう時に通る雑木林を歩いていた時であった。

「!!!」

一人、5歳くらいの女の子が、白いワンピースのスカートを一枚着たままの格好で遊んでいた。

「寒そうだなあ...。一体、親はどういう躾をしているんだろう...」

雑木林には雪がたくさん積もっている。

少しの間、立ち止まって見ていると、今度は僕に気がついたのかこっちによってきた。

ペタペタペタ...。

はは、可愛らしいもんだよな...。と最初は微笑みながら女の子の事をみていた。

しかし、次の瞬間、驚きに変わった。

!素足!この子、素足だ...。足が凍傷を起こしてしまうぞっ。

僕はすぐに女の子を抱き上げた。

「ねえ、君の両親はどこにいるのかなあ」

しかし、女の子はただ首を振るばかりであった。

「困ったなあ...、こっちも会社に急がなくてはならないしな...」

「こまったなあ...、こっちモかいシャにいそがなクテハならナイシナ...」

「!」

この子、言葉が喋れないのか?それともこんな小さな子供に僕はからかわれているのか。

「ねえ、僕はねえ、今、とっても急いでいるの。わかるかなあ〜」

しかし、女の子はきょとんとしている。

「まいったなあ、こんなところに女の子が一人...。変質者のいい餌食になってしまうぞ。しかし、だからといって会社まで連れていくわけにもいかないし...。交番にでも届けるか...」
(まあ、それもなんかあまりいい方法とはいえないけれども、しかたあないか...。でもいやまてよ!

もし、この子の親が実は側にいて連れて行くところを見られたりしたら...。それこそ今度は僕が変質者扱いされちゃうじゃん。まずいって、もうすぐ、結婚してもおかしくない僕が実は変質者...。そんな誤解を受けて見ろ!僕は完全に後ろ指刺されるぞ!(*ご免なさい。この表現って一部のお方に対してとても失礼ですよね。要は社会問題を起こすか起こさないか...、いやそれとも...、まあいいや!とにかくご免なさい。悪気はまったくありません)いったいどうすれば...」

女の子は薄着で外にいた割には以外と温かった。
肩まで伸びている髪の毛もさらさらとしている。

しょうがない...。おいていくしかないかな...。きっと、僕の考えすぎだったんだよな...。うん、きっとそうだ。そう考えた方が楽だ。大丈夫、会社に行って、普通に仕事でもしてればすぐに忘れるって。

そう無理に自分に言い聞かせた。
しかし、僕は本当にこんな薄着の、言葉もろくに喋れない女の子をほったらかしにして行けるのか。

だめだ...。できない。できな〜い。

僕が一人悩んでいると、なんだか女の子がさっきより少しばかり重たく感じられるようになってきた。

「ええっ!」

目の錯覚か、女の子が一回りばかり大きくなたように見える。

「ちょ、ちょっと...。なによ、これ...」

僕が驚いていると、女の子は僕の腕から飛び降りた。

ただ、唖然として見ていると、女の子は再び雪の中を素足でかけずりだした。

ペタペタペタ...ドテッ。

「あっ」

女の子は僕の見ている前で転んだ。

「えへへ、転んじゃった」

 初めて日本語をちゃんと喋った!
今、この子は僕の目の前で確かに意味の通じる日本語を喋った。
何で?さっきまではなにを聞いてもまともな反応が返ってこなかったのに...。

「ねえ、君さ、ちゃんと言葉話せるのかい?」

僕はホッとした。とにかくこの子を親元に返せば僕の責任はもうなにもない。

目の前の子供はコクッと頷いた。

「よかった。じゃあ、君のお母さんでもお父さんでもいいから会わせてくれないかなあ...」

するとまた女の子は首を振った。

「もしかして...いないとか...」

すると頷いた。

げげっ、このパターンってまずいじゃん。一体、僕にどうしろっていうの。

僕が女の子から少し後退りした時だ。

「う、うわ〜ん!」

し、しまったあ!

気が動転してしまったからであろうか...。

女の子の手を引いてそのまま交番に向かっていた。

道端で誰かにあったらどうしよう...。

いろんな不安が頭の中をよぎったがとにかく交番にいくしかない。
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by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:16 | ショート小説

急に雨が降って来た。
空は先まで曇ってはいたけれども、雨が降りそうな感じではなかったと思う。
雨はぱらぱらと音をたてて落ちてきた。
途端に街のいたる所で雨の音が聴こえだした。

僕は先ほど買った画材を急いで自分の鞄の中にしまった。
小雨は嫌いじゃないけれども、画材が濡れるといけないから...。

ふと、考えてみる。
天から舞い落ちてくる雨はこの地上の変わり様をどう思っているんだろうと。
長い時間の流れの中でこの大地はいろいろなものに姿を変え、そしてそこに住む人間という生き物はいまや、あなたたちよりも遠い存在を知っている...。天よりも高く...。空を越えて...。

ふと僕を呼ぶ声がした。
振り向くと男の人がこちらを向いて立っている。
「傘ささないと風邪ひきますよ」
どうやら、僕に傘に一緒に入れと言いたいらしい。
僕は笑顔で答えた。
「いいえ、もう少しこうしていたいんです。でもありがとう」

男の人は済まなそうにこっちに会釈をして行ってしまった。
ありがとさん...。でも僕はもうちょっとの間 雨に打たれていたいのさ。
そう、もう少しの間、雨が降ったら、雨が体に落ちてきたらどんな感触なのかを久々に確かめてみるのも悪くない...。
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by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:15 | ショート小説

透明な音

  「斉(ひとし)ってなんでも出来るんだね。すごいなあ」
目の前には嬉しそうに話しかけてくる彼女がいる。
彼女の喜怒哀楽は多彩であり、その表現はいつも生き生きとしている。
よく笑う彼女。なにがそれほど可笑しかったの?と聞いたら彼女はまた笑った。
「きっと、可笑しいから笑うんだよ、可笑しいことに理由はないと思うよ」
「そんな物なのかね、まだ僕には分かりそうもないね...」
彼女はそれを優しく否定する。
「そんな事ないよ。だって今の斉はとても嬉しそうに笑っているよ」
僕は、ちょっとだけ照れてみせた。
「嬉しいと可笑しいは違うよ、佳菜。多分...、それは」
佳菜はにこにこしながら首をふる。その動作がまたたまらなく可愛らしい。
「一緒よ、嬉しいのも可笑しいのもきっと同じなの。だって、皆、同じく幸せな気持ちなんだもの」
「そんなもんかなあ...」
「うん、そんなもんなの。少なくとも私の中ではね」
佳菜の微笑みは僕を幸せにしてくれる。だから、僕もなにかお返しをしなくては。
「斉、今度はさあ、こんな感じのもの作ってみてよ」
そう言って、両手で一生懸命に形を説明しようとする君が笑える。
「なによ、私斉みたいに絵がかけないからうまく説明できないのよ」
いいって、佳菜は絵がかけなくてももっと良いものをもっているから...。
佳菜はいつもなにに対しても真剣だ。
なんでそんなに頑張れるのだろう。その小さな体にはどれほどの可能性が秘められているんだろう。
「私ね、自分に対して素直なの。やりたい事はやりたいし、欲しい物は欲しいんだよ」
それが、たとえ、人を傷つけ悲しませる結果になったとしても?もう二度と親友が以前のような付き合い方をしてくれなくても?せっかく守っていた自分の中の大切ななにかが壊れたとしても?
かけがえのない物を失ってしまうかもしれないっていうのに...。
「それでもね、私は明るい方向にしか考えられないの。傷つくことも痛みを感じる事も皆大切な事なんだよってね、必要な事なんだって自分の中で思えるの」
この子はきっと...、なんていったらいいんだろう。太陽みたいに輝いていて、その無邪気さに強くひかれずにはいられない...。
「ねえ、佳菜は僕の事を必要としているのかい?」
そう言って僕は顔を伏せた。
こんなに明るく、なんでも自分で押し進めていってしまう子が果たして僕なんかを必要としているのだろうか?この子の心の中にたとえわずかでも僕の居場所はあるのだろうか...?
僕をわずかでもいいから必要だっと思って欲しい。僕があなたを必要とするように...。僕の言った言葉がエゴに聞こえなければいい。僕は卑屈だからあなたを一部だけでも支配したいと思っているから...。きっと僕の醜く弱々しい心なんて全部見透かされている...。
僕はゆっくりと顔を上げた。
「なにを言うかと思えば...、私は斉の事を必要としています。私、完璧なんかじゃないし、そうなりたいとも思わない。愛する人の前ではできるだけ自分をさらけ出したいだけ...。それがどこまで可能なのかは分からない。私たちがお互いのすべてを理解しあえる日はこないかもしれないけれど、お互いの事を認めあい、知りたいと思う。同じ体験をしたいとさえ思うかもしれない。だってそれは単純にあなたに私がひかれているから...。私があなたのことを身を焦がすほど愛しているから...」
彼女は顔を赤らめてそう言った。感情的になっていた。
僕はいつも冷静に自分を隠す事で精一杯だけれども彼女は違うんだ...。
僕は君のそのなんでも出来る透明な純粋さが気に入っている。
そしてその音をいつまでも聴かせておくれ...。

FIN
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by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:14 | ショート小説

天空の街 2

それは前から考えていたことではあったけれども、機会をうかがって話出そうと思っていたわけではなかった。ただ急に思いついたように話出してみただけであった。
彼女は快く承諾してくれた。
すでに僕たちは肉体関係もあったし、どちらかの家に寝泊りするということはざらであった。
 初めて、彼女との肉体関係を持ったときはさすがに怖かった。
なんていうのか、もう二度と昔には戻れない感覚とでもいうのか、なにかと決別しなくてはならない気持ちだった。なんで新しいことを体験するのにこれほどまで怯えなくてはならないのかと思った。
 そう、彼女と知り合うまで僕はまだ初体験を済ませていない人間であった。彼女の方はどうやらそうでもなかったようだが。そのことに関しては劣等感は感じなかったが、自分だけがなにも知らないということに少し戸惑いを覚えた。
彼女とのセックスは夜に行われた。僕は照れながら一生懸命に下らないギャグを飛ばし、彼女も無理に笑ってくれた。
「ねえ、無理ならば、やらなくてもいいんだよ」
彼女はそういって僕を安心させようとしてくれた。
なんていうことだ、これじゃまるで立場が逆だ!そう言われてすでに逃げ腰になっている自分に恥じた。
 照明を落とすと、僕は酒をがぶ飲みしだした。
「酒クサイ男は嫌いれすかあ」
彼女は苦笑いを浮かべて、
「うん、なんかムードないよねえ」
と言った。
「そう、じゃあ今日はやめておくかなあ」
そう言いかけた時 急に彼女が抱きついてきた。
「こらいくじなし、お人好し、あなたは絶対に拒否できないような状況が必要ね」
彼女のリンスの匂と長い髪が僕の顔に覆いかぶさり、首筋を軽く撫でた。
僕はゆっくりと彼女の体に手を回して驚いた。
女性の体は以外にも細く、そして柔らかかった。
いままで空想していた弾力のあり張りのある体というのとはちょっとばかし違っていた。
「壊れてしまいそうだよ。今手の中にある君の体が」
「そうよ、とても弱いんだから大切にあつかってよ」
お互いに服を着たままであったが、それでももうすでになにもかもどうでもいいような気さえした。
彼女は色っぽく少し困った声で僕の耳もとに囁きかけてきた。

「服はぬがしてくれないのかなあ、このままだと先へ進めないよ」
「うん、ごめん」
「どうしてすぐそう謝るの?私責めていないから大丈夫だよ。気にしないで、不安にならなで」
なにもかも彼女は優しく包みこんでくれた。
 しかし、なかなか彼女の中に僕はそれ以上すすむことが出来なかった。
なんていうのか、他人の体内に自分の一部を任せてしまうということに恐怖すら感じていたのだ。
しかし、それは彼女も同じことではないか? セックスはお互いの信頼がないと出来ないものなのだろう。
 戸惑う僕を彼女は素早く察知したが、けして馬鹿にするようなことはなかった。
 「セックスって、女ばかりが怖い思いすると思っていたけどそうでもないんだね。なんだか嬉しいような恥ずかしいような...。でも安心して、私たちはきっと大丈夫だから」
結局男なんてのは女性の前では子供にしか過ぎないんじゃないのかとさえ思えた。
 僕たちは一緒になってから少しの間ゆっくりと動いては止まっていた。
たぶん、お互いに同じ温もりを長く共有していたかったのだと思う。
自分ひとりでは決して得られない温もりを欲していた。
時々、忘れてしまったのではないかと不安になり、ゆっくり動いては確認しあう。
溶けていく感覚は闇に落ちていくような感じにも似ていた。
時々、うっすらと目を開けると彼女は苦しそうにしてみせたり、安らぎに満ちた顔をして見せたりもした。
どれだけの間そうしていたのかはわからないけれども、やがて二人は最後を迎えた。
僕の初めての経験はあまりにも大きすぎる経験でもあった。
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by tenkuunomachi | 2004-07-09 01:14 | ショート小説