人気ブログランキング | 話題のタグを見る

日々、雲のように流れて行く事象。世界中はエアに包まれている


by tenkuunomachi
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

セックスセックスセクス

「ねえ、あんたさあ、なんていうのか、女顔じゃん。化粧してみたら以外と似合ったりして」
妖しい笑みを浮かべて彼女は僕の前に手鏡を差し出す。
                       1

踊るのに疲れた僕がカウンターで一人休んでいた。
 一息つくときはいつもタバコを吸うのだが、その時は生憎と愛用のジッポも百円ライターもなかった。
 ボーイに火をかりようとした時、隣からそっとガスライターが差し出された。
ライターを差し出すその腕は白く、透き通っているようであった。多分、暗すぎる照明の光が必要以上にその細い腕を青白く見せたのだろう。
 「ありがとう」
そう言って、その腕に視線を滑らせ、更にその腕の持ち主へと視線を走らせた。
「あら、お一人なの?」
石膏の様な腕の持ち主は月のような女性であった。月の女神とでもいったらいいだろうか?
その声は僕の耳をくすぐるほどまでには魅力的ではなかったが、その声を発した唇は白い肌に痛々しいほどに赤いルージュがさしてあった。ある種、被虐的なところがあると感じた。
 そう、まるで一点の曇りすらない雪の大地に跡を残してしまった獣の血のように...。
僕は激しいめまいを一瞬感じたが、すぐに気を取り直して彼女の問いに答えた。
「ええ、ここにはいつも一人で来ていますよ」
すると、ほとんど光の感じられない闇の中で彼女の瞳が細まった。
「ここには、なにをしに一人で来るの?」
僕は微笑みを浮かべながら答えた。
「なにって、踊りにさ」
彼女はその答えでは満足がいかないようであった。
「私はここに踊りにくるのだけが目的ではないわ。そう、あなたみたいに満たされない人間の願いをかなえるために来るのよ」
僕は一瞬ではあるがカチンときた感情を強く抑えると、かわりに痛切な嫌味を言ってやった。
「なんだよ。一発やらせてくれるとでもいうのかい?しかもタダで。それとも今みたいに僕が困っていたところを手助けするのが君の目的かい?」
彼女は馬鹿にするように笑った。
「それで、あんたが満足するのならばね。いいわよ。でもそれでいいの?」
そういう彼女は強くセックスをアピールしている格好だ。
エナメルのボデイコンはまるでボンテージを連想させる。
僕は少しの間考えた。
何を考える必要があるんだ。こんなのからかわれているだけじゃないか。僕に隙があったのだろうか?これは逆ナンパかなんかなのか?
しかし、心の奥底では願い事を言えと囁く声がする。
駄目でもともとではないか。
「本当になんでも叶えてくれるんだな」
そう言うと彼女の唇がきつく吊り上がった。
「ええ、まわりに迷惑のかからない範囲だったらね、もっとも世界征服を企むような人間や、誰かを殺してやりたいなんて考える人の前に私は現われないけれども」
僕はいよいよ鼓動が早くなりだしていた。
「本当にいいのかよ。なあ本当に...」
「いいわよ」
「僕の願いは...」
そこで意識を失い僕は落ちていった。
目が醒めると見慣れない部屋に彼女と二人きりでいた。
「ここは、どこ?」
僕がそう聞くと彼女は優しい声で囁いた。
「ここは夢のなかよ。きっと」
「えっ、夢の中って?」
「いいの、気にしないで」
そういう彼女の顔は先程のような妖艶なふいんきはない。
あいかわらずエナメルのボデイコンを身につけている彼女の体は苦しそうでもあり、それがまた刺激的である。
突然、彼女は手鏡をどこからか持ち出してくると僕の前に差し出してきた。
「ねえ、あなたさあ、女顔じゃん。化粧してみたら以外と似合ったりして」
僕の顔は確かに女顔である。綺麗だね。と言う人もいるが、僕はこの顔のせいでどちらにも属さない人間になってしまった。
彼女もまた、そんな僕の気持ちを知らないのだろうか、顔の事に触れてきた。
「僕のこの顔はどちらにも属さないんだ」
そう言うと彼女は微笑した。
「あら、世の中には自分の顔が理想と離れすぎていて悩んでいる人が大勢いるんだから。そんなこと言っちゃだめよ。それにあなたは今...」
そして僕は驚いた。
「あっ」
なんと自分の体が女性になっている。
胸の膨らみのせいで足もとがよく見えないのだ。
「どうして?」
声までいつのまにか女の声になっている。
「あなたがそれを望んだからよ。あなたが女性になってみたいって」
「そ...そんなつもりは...」
しかし彼女は容赦なく僕を後ろから襲ってきた。
「あっ」
「あなた、男では決して入れないレズの世界に興味があったんでしょう?罪の意識もなく、淫放で不可思議で背徳的で、そして繰り返し終わることのない世界に...」
自分の決して人には見せない欲望をあっさりと見抜かれてしまっていた。
 男という男の視線を一身に集める程の魅力的な女性が決して男を相手にすることなく、同じように美しさと完璧さとを兼ね備えた女性とのみ絡み合う光景...。汚れてはいけないのだ...。壊れてはいけないのだ。そのはずの、絶対的な女性同士で行われる肉欲の絡み合い...。初めから一切の快楽を得れる肉体となっており、処女膜なんていうものは存在しない...。外見上は傷つくことなく、また純粋に快楽を得ている彼女達の心には一切の迷いも曇りも存在しない。ただ、お互いを責め、責められる。
喜びにうち震えながら...。
 _ それはもう選ばれたものの特権と言ってもいい。彼女達は永遠に若く美しいのだ。_
そんな妄想を僕は抱いていた。
クラブで男達とじゃれあう女達...。
それがただ純粋にお互いを好いているから、愛しているから、というのならばいいが、初めて出逢った男と女がそこらへんでセックスをしている。
 まるで動物園にいるようだ。
そして、悲しいかな、それを見ている僕も、いつのまにか野性的な部分が目覚めてくる。
 僕は完璧でないものは許せなかった。
そんな、狂った、誤りだらけの不完全で未完成な愚にもつかない奴等がいっちょまえに主張していること自体腹がたった。
「あなた。ちょっとヒステリーになりすぎよ。だから、私が全て解放してあげる」
そう言ったかとおもうと、いきなり私の体を愛撫しだした。
今までとは違う切ない感覚が体中を走る。
「はん...」
「くうっ」
熱い息がもれる。
「どう、想像していた以上にいいでしょう?あなたは今自分が求めていた最高の女性になりきって、その体で快感を得ているのよ。ものすごい贅沢よねえ。自分がなんの努力もしないで自分以外の者になるってことが一番の贅沢かもしれない...」
私の体と心は次から次へと襲ってくる快感の波に揉まれていて、彼女の意見を聞いている暇がない。
彼女はボデイコンの胸のところだけをさらけだしたまま愛撫を続けている。
 私自身も同じ格好、同じ状態だ。最初から全部を見せあうのは早すぎる。
「あっ、お姉様、もう、めちゃくちゃにしてえ!」
「ふふふ、大胆ね、いいわ、めちゃくちゃにしてあげる」
突然私の服は一気にはぎとられ、一糸まとわない私の体を一気に攻め上げる。
「くっ、くう、くああああ、いや、いや、んんっ...」
そしてついに絶頂を迎えた。
2
 僕は自分の体を男に戻してもらった。
とたんに、ごつごつとしたラインの悪い体になる。
「意地悪しないで...」
彼女はクスっと笑う。
「意地悪のつもりはないわ。ただ、女性たちの大半はレズではないし、あなたみたいな男の体を求めているのよ。ふふふ...。勿論、あなたみたいな体になりたいのではなくて、あなたみたいな体つきの人に抱かれたいって思っているんだけどね」
「意地悪な言いかたね」
「だって、本当のことだもん。考えてみなさいよ。あなた、そんな最高の肉体を持った女性をあなたみたいな醜い肉体の人間が抱けるのよ」
そうやって、男は自分の野心を満足させるのだろうか?
「わ...私は」
彼女は強い口調で言った。
「女性の体には興味がある。けれども、生理とか妊娠などといっためんどうな事は一つだって欲しくはない...。あなたって随分とエゴイストねえ、まるっきし、やるだけやって後の責任は一切とらない最低の男と一緒ねえ。自分さえよければ人のことなんてどうでもいい。そういった気持ちを認めるのが嫌で仕方がないから勝ってに幻想の世界に逃げ込む...。綺麗なレズビアンという設定までつけてね
。あなただって、単なる性欲の塊なのよね、みんな異常性欲とかノーマルって言ってかたずけようとするけれども、それは、確かに、なにもわからない少女にいたずらするロリコンとか、強姦でしか感じない人間とか、死体相手にセックスするような人種は最低な下衆よ。クズよ。あなたたちはホモとかおかまを自分たちとは違う人種とみなそうとするし、小馬鹿にするけれども、なに一つ責任をとれない人間に言う資格はないわよねえ」
「僕がなにをしたっていうんだ。僕はただ単に自分の空想の世界で遊んでいるだけじゃないか」
彼女は笑って見せた。
「そう、おこらないで。別にあなたを責めているわけじゃないから...。ただ、あなた、少し、逃げすぎなのよね、本当は自分だって、べっぴんの女をものにしたいって考えているはずなのに、それを意識的に遮断しようよしているんだもの...」
「僕だって、本当は君みたな女性をこっちに向けさせたいさ。力ずくではなく、僕を愛してくれるように...」
「そのためには、やはりあなたから、彼女に興味を示していることを表現しなくちゃ...。なんでも一方的では伝わらないわ」
「どうして、そんなことを僕に教えてくれるの?」
「言ったでしょう。私はあなたの願いをかなえるものだって...」
「あ...あなたは......」
「私は......」



 さて、ここで話は終である。
ぼくは結局なにを言いたかったのか自分でもわからない。
きっと、これも鼻糞にも値しない屑なのかもしれない。
幻なのかもしれない。
なぜならば、決して実現されない空想よりもたちの悪いものはないから...。
by tenkuunomachi | 2004-07-14 20:28 | ショート小説